9.自らのデザイン・イラストを守る(1)

デザイン・イラストを守る

今回はお待ちかね、知財の話です。せっかく苦労して新しい作品を創り出しても、すぐに他人に模倣されてしまうようだと、新しいものを創造しようという意欲も失われてしまうでしょう。そこで創作者らに一定期間の権利保護を認めるのが知的財産権制度なのです。
今回から、知的財産権についての基礎知識を提供しようと思いますが、基礎知識とはいっても取り扱う内容がやや多岐にわたるので、今回から3回に分けて解説していこうと思います。
知財は皆さんにとって活動や収入を大きく作用する重要なファクターでしょう。特にイラストレーターの皆様や、キャラクターなどを制作している方にとっては死活問題にもなり得ます。グラフィックデザイナーなどにとっても、知的財産権制度をよく理解すれば、自分のデザインの価値を高めるために戦略的に使うこともできるのです。

【注意】より詳しい内容や手続きについては専門書を読むか、弁理士など専門家のアドバイスを受けてください。

 

知的財産を守る法律

日本デザイン団体協議会が以前、会員デザイナー約6000人に対して実施したアンケートによると、有効回答者の約半数が何らかの形で「知的財産権を活用している」と答えたそうです。どのような法律を活用しているかを尋ねてみると、製品デザインに携わる人は意匠法と特許法を活用する割合が高く、グラフィックデザイナーは商標法、著作権法、意匠法の順で高かったです。また、デザイン紛争に巻き込まれたことがある人は約3割いました。
デザインの権利に係る紛争を未然に防いだり、権利を十分に活用して自らの創作の価値を高めたりするためにも、知財に関する法律の基礎知識は、いまやデザイナーにとって常識と言ってよいでしょう。

知的財産権を守る法律には、産業の発展を目的とする特許法、実用新案法、意匠法、商標法(この4法を産業財産権法と呼ぶ)のほか、文化の発展を目的とする著作権法などがあります。
これらの法律によって保護される権利を、それぞれ特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権などと呼びます。
製品デザインやパッケージには意匠権のほか特許権、実用新案権が関係する場合があります。ロゴやネーミングには商標権が関係してきます。またイラスト、キャラクター、ゲームソフトなどは著作権保護の対象となります。

知的財産権を守る法律

産業財産権法の保護対象以下、これらの権利について、それぞれ基本的な内容を明かしていきます。

 

著作権

著作権で保護される作品のことを「著作物」と呼びます。
厳密に言うと、著作権で守られる作品つまり著作物の範囲は、著作権法という法律で定められています。著作権法では、「思想や感情を創作的に表現したもので、文芸・学術・美術・または音楽の範囲に属するもの」を著作物であると定めています。

「創作的に表現したもの」とあるのは、だれが作成しても同じ表現になるようなものは、著作物とはみなされないということです。とはいっても、その創作性は高度のものである必要はなく、他と区別できる程度のものであればよいとされています。
「表現したもの」とあるので、単なるアイディアだけでは著作物とはならず、著作権法で保護されないのです。

また、法でいう「美術」とは、絵画や版画のような平面なものや彫刻のような立体物のような芸術作品をいい、おおよそデザイン作品はこれにあたります。
ちなみに書道作品もこれに含まれますが、タイプフェイス(書体・フォント)は含まれないとされています。

デザインは著作権によって、自動的に保護されます。
「自動的に」というのは、創作が完成すれば自動的に発生し、出願や登録をする必要がないということです。
(「必要がない」ということであって、文化庁に対して登録をする制度自体はあります。)
つまり著作権というのは、他人から無断で複製されることを防ぐために、皆さんのようにオリジナルの作品を創作した者に対して自動的に与えられる権利なのです。

著作物は、アーティストやデザイナーなど著作者本人が生きている間はもちろん、その死後50年間にわたって保護されます。また著作権に関する国際条約(ベルヌ条約および万国著作権条約)に基づき、ある国において創作された著作物は、他のほとんどの国においても自動的に著作物として保護されることになっているのです。

参考:デザイン・イラストの著作権

 

意匠権

 

◆意匠とは

意匠法は、デザイン保護のための最も強い制度であり、デザイン保護の主役といってもよいでしょう。意匠法では、量産可能な物品のデザインを「意匠」と呼び、意匠権という権利を設定して保護しています。意匠法で保護する意匠は、「物品(物品の部分を含む)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定められています。

ここでいう「物品」とは、運搬可能なものを意味します。したがって、不動産である建築物は意匠法での保護の対象となりません。(ただし組立家屋は構成部品が工業生産され運搬可能なことから「物品」に含まれます。)物品に係るデザインであればジャンルは問われません。インダストリアルデザインのほかテキスタイルデザイン、ファッションデザイン、ジュエリーデザイン、書籍、ポスター、包装紙なども意匠法による保護の対象となるのです。

また、物品全体(完成品)のデザインを意匠として出願登録できることはもちろん、物品の一部分のデザインも出願登録できる場合があります。たとえば完成品である自転車のほか、その部品である自転車用フレームや自転車用ペダルも、意匠登録の対象となるのです。これを部分意匠制度といいます。部分意匠制度は、特徴ある部分を第三者に模倣されることを防止するために有効な制度です。

一方、物品そのもののデザイン以外は意匠法の保護の対象となりません。
たとえばゲーム機は保護の対象となりますが、そのゲームの画像は保護の対象とはなりません。また具体的な物品から離れた単なる模様、モチーフなども法でいう意匠ではないのです。
タイプフェイス、シンボルマークや商標、アイコン、キャラクター、ショーウインドーのディスプレイ、噴水・花火、映像デザイン、環境デザインなども意匠法での保護の対象にはならないのです。

ただし、欧米や韓国等、諸外国ではウェブデザインを始めとする「画像デザイン」が(一定の条件の下で)意匠保護の対象となっており、日本でも意匠保護の対象範囲拡大の論議が始まっています。

 

◆意匠登録の条件

意匠は特許庁が審査のうえ登録します。登録されるために必要な条件は以下のとおりです。

 

①工業上利用できること

・・・工業上利用できるもの、つまり量産できるものでなければなりません。
(例)一点ものの美術作品や盆栽などは意匠登録できません。

②新規性があること

・・・すでに公然と知られていたり、刊行物などに記載された意匠は登録できない。これらに類似する意匠も登録できない。
さらに、先に出願された意匠(先願意匠)と後に出願された意匠(後願意匠)が同一または類似しているときは、先願意匠が登録される。

③容易に創作できた意匠でないこと

・・・通常の知識を持っている者ならば容易に創作できるような意匠は創作性が乏しいので登録できない。
(例)星型の石鹸、東京タワーの置物などは意匠登録できない。

④公序良俗を害するおそれのある意匠でないこと

・・・たとえば元首の像、国旗または皇室もしくは王室の紋章などを表したものは公益的理由から意匠登録になじまない。
また人の道徳感を不当に刺激し、羞恥、嫌悪の念を起こさせるものも意匠登録できない。

 

◆意匠の保護

意匠登録は出願に手間と費用が掛かり容易ではないですが、いったん意匠登録されたデザインは、あなたのポートフォリオにおいて強力な資産となるでしょう。特にそのデザインがビジネスにおいて価値が高いと認められる場合には、意匠登録をしておくと断然有利になり、その権利の効力は絶大です。
なぜなら意匠権者は、登録意匠およびこれに類似する意匠を、独占排他的に使用することができるからです。

たとえば誰か他の者が勝手にその意匠を使用すれぱ、意匠権侵害となります。
意匠権侵害に対しては、侵害行為の差止め、損害賠償などを相手に請求することができますし、侵害した者は刑事罰(3年以内の懲役または300万円以下の罰金。法人に対しては1億円以下の罰金)の対象ともなります。さらに海外から入ってくる物品に対しても、関税定率法に基づく輸入差止請求が可能なのです。

しかもデザインが意匠登録されていれば、特許庁がこれを認めているわけなので、自分が権利を保持していることを自ら証明する必要もありません。著作権を主張するためにはそれが自分のオリジナル作品であることを自ら証明しなければならないのとは対照的です。
だから、意匠登録をしていれば、自らのデザインについて非常に有利に権利を主張することができるのです。

意匠登録されたデザインは登録後15年間にわたって保護されます。

 

◆意匠出願の手数料および登録料

・意匠登録出願・・・16,000円
・登録料(第1年から3年まで)・・・毎年 8,500円
(第4年から10年まで)・・・毎年 16,900円
(第11年から15年まで)・・・毎年 33,800円
※その他、弁理士を起用する場合は弁理士費用が別途必要。

 

◆海外での意匠登録

デザインは日本国内はもちろん、海外でも意匠登録することができます。

意匠に関する国際出願制度として世界各国に一括出願できるヘーグ協定(またはハーグ協定)があり、2014年現在では日本は加盟していないので日本からは利用できませんが、国会での承認がされているので間もなく皆さんもできるようになりそうです。

欧州については共同体意匠制度という仕組みがあるので、共同体意匠商標庁に出願することで、欧州連合(EU)加盟国の全てに効力が及ぶ権利を得ることが可能です。


 

以上、最後までお読みいただきありがとうございました!

ベテランの皆さんにとっては少々退屈かもしれませんが、これを機にご自身の知的財産を有効に使えているか再確認していただくとよいでしょう。まだ若いクリエ イターの皆さんの中には、とにかくクライアントに全て差し出す、という姿勢の方もいらっしゃるかもしれません。もちろん仕事としてやっていく上でクライアントに不利益にならないように進めてていくことも大切ですが、知的財産権制度を知識として身に付けておくことは怠ってはなりません。この知識は、いつか必ず皆さんの盾となり剣となるはずです。

次回は、「9.自らのデザインを守る(2)」として、特許や商標についても基本的な部分をお話しします。
記事に誤りなどがありましたら、ご指摘いただければ幸いです。また、ご意見・ご感想などもお気軽にお寄せください。
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この記事の著者

藤田 健プランニングディレクター

Skillotsを含むエフ・プラット株式会社の全てのサービスの企画・運営責任者。
神奈川県出身・中野区在住。

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