文章作品
ミレスイ恋魔法瓶
●異世界の上空
(……………ここは……どこ?)
目を開くと、ミレスイ・キュリアは落ちていた。
何故こんなことになってしまったのかはわからない。
とにかく頭から落ちていた。青い大空から地上へと。
強い風にあおられてはためく紺色のワンピースのせいで、下からは小さな鳥か何かのように見えているのだろう。
飛ばされないように細い眼鏡をおさえるが、そのレンズ越しに景色を見てみたいなどとも思えず、焦る心を無理矢理落ち着かせようとするけれども、バタバタと風にやかましく体中をゆすられていては無理な話。
(と、とにかく冷静になって考えないと……)
このままではどうなるのかなど、身をもって体験する必要がないほど明らかだった。
とっさにあることを思い立ったミレスイは、踊るスカートの隙間から脚を確認する。
自分が作った魔法瓶が備えられているはずだった。
それを使えば風の力を利用でき、この危機的状況を回避できる。
(っ?!)
だが、確信していた彼女は愕然としていた。
よりにもよってこんなときに何も装着してきていない。
ただひんやりとした手がそのまま脚に触れるだけで。
もう何も打つ手がない。ミレスイは心の底までぞっと血の気が引いた。
―――――死ぬのか
そんな妙な覚悟すら生まれてしまった。
ミレスイは全身の力が抜け、その身をすべて風にゆだねてしまう。そのときやっと周囲の風景が見えるようになった。
地平線が見えた。さっきよりもさらに低い位置にいる気がする。
……当然だ。落ちているのだから。
しかし何も持ってきていないということは、もしかして自分は死ぬつもりでどこかから飛び降りたのだろうか?
考えても思い当たらず、ミレスイは首を傾げる。
一体何を早まってしまったのだろう。
(まだ異世界へ行く瓶の研究が途中だったのに……)
そもそも飛び降りようとした前後の記憶自体が無い。
落下時間だって結構なものだ。これはきっと雲のさらに上の位置から落ちてきたに違いなかった。
そして景色を眺めていて、ようやく地上の様子がうっすらと分かるようになると、もう一つ疑問が生まれた。
建物の様子が全く違う。いや、そもそも無いのだ。彼女の世界の象徴ともいえる8色の結晶の柱が。
「ここは一体」
思わず声に出してしまったとき、ふと地面のほうから視線を感じた。
これが自分の見る最後の光景になるかもしれないが。
おそるおそる、真下に広がる草原に目を向ける。
……その中に視線をくれているものがいた。
(人?!)
その目が合った瞬間、ミレスイは自分の身が落ちていることも忘れて見入ってしまう。
木々の葉の色に似た長い髪をなびかせて、宝石のように透明感のある灰色の瞳で、相手もミレスイを見上げていた。
髪には天秤の両端をイメージさせる金色の大きな髪飾り。さらにヴェールのようなものまでつけている。
紫の大きな球のイヤリングが揺れて、今にもジャラジャラと音が聞こえてきそうな。
ドレスのように裾が地面にひろがっている服……顔つきは青年のようだが、その佇む姿はまるで天使か女神のようだった
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