• Search Artists
  • Send Request
  • Negotiate Terms
  • Receive Quotation
  • Discuss
  • Pay
  • Deliver
  • Send Feedback

Text Works

WEB小説【黒い天使と黒い悪魔】

そこはいかにも都会、と言わんばかりに高層ビルの立ち並ぶ国でした。国に入ると同じ高さの高層ビルが左右に並び、突き当りにはそれより一回り高い時計台が建っているのでした。
そしてそのビルや時計台全てが眩しいばかりの光を放っているのでした。この国は日中も夜のように暗いからです。まさに都会の明かりを見せつけるにはもってこいな国なのです。クリムとリヴィオはそんな国に訪れているのでした。

「これが残業の光ってやつなのかなあ…」と夢のないことを言う悪魔の少年、これがリヴィオです。厳密にはまだ子供なので小悪魔と言っても過言ではないかもしれません。
そんな彼も都会の街明かりが珍しいのか、目をキラキラと輝かせて高いビルを見上げていました。
「さすがは電気の国。こんなに明るかったら夜なんて忘れちゃいそうだよな。」そんなリヴィオの隣を歩く天使の少年、クリム。
と言っても、彼の羽はとても邪魔になるので今は締まって肌が青いこと以外は普通の人間のようでした。
彼の手には「電気の国ヴェラネッタ 観光ガイド」と書かれた本が握られていました。見知らぬ街へ行く以上下調べは基本、決してお土産を選別するためではないのだというのがクリムの意見です。
「この国には羽の形をしたランプがあるって書いてあったんだよなー。家のお土産にすごい良さそうでさ、もうこれ買うしかないんだよ。」クリムは前言撤回をするべきかもしれません。おもいきりお土産を選別しています。

「ようこそ、電気の国ヴェラネッタへ。」
二人が歩いていると、シルクハットを被って燕尾服に身を包んだ男性が声をかけてきました。男性の被るシルクハットには豆電球が埋め込まれていて、尋問でもないのに二人に光を当ててきました。
「ど、どうも…。」クリムは明かりを避けて、男性へ挨拶しました。
「よく俺たちが旅人って分かりましたね。」
すると男性はふるふると首を振ります。
「わかりますとも。この国の住人は全員衣服に豆電球を埋め込むしきたりがあるのですから。それのない方は全員旅人ってことになるのです。故にきっと旅の大道芸人なのだなと納得した次第です。」
「はあ…どおりでそんなシルクハットを被っているわけなんですね…。」
「どうです?広すぎてどこに何のお店があるかわからないでしょう。よろしければ道案内をいたしますが…。」
二人はせっかくなので道案内をお願いすることにしました。

街には食品売り場、本屋や宿屋などが並び当たり前の日常を町の人々が過ごしていました。ええ、全員衣服にランプが埋め込まれている以外は。
道案内をしてくれた男性のように帽子に埋め込む者もいれば、ブローチのように胸につけている者、派手な人はワンピースの裾に小さな豆ランプを埋め込んでいました。正直とても眩しいです。クリムはともかく、悪魔のリヴィオにはとても耐えがたい光景でした。おかげでただでさえ元々口数少ないのが、より増し増しになってしまっているようでした。たまに目をぱちぱちさせたり、顔を拭ったりしている様子も見えます。

「どうしてこの国にはこんなに明かりがあるんですかね?」
とクリムが尋ねると、燕尾服の男性は待ってました!とばかりに踊るように二人の前に立つと、街の突き当りにある時計台を手で示しました。
「あそこの電力会社が安くたくさんの電気を提供してくれるから、なのですよ。」
二人は、彼の話を聞くことにしました。

「この街はご存知の通り極夜です。太陽の光には恵まれない街なのです。春~夏頃なんてもう真っ暗になってしまうわけです。でも連日ずっと照らし続けるなんて当然無理なわけで、我々は太陽の当たる秋・冬に仕事を集中して暗い日は限られた時間でのみ活動をしていたわけなんですな。おかげで街は全く繁盛せず旅人も来ない貧しく寂しい日々でした。」
「でも今は…夏なんじゃ?」
リヴィオが眩しい街並みを眺めながらボソッと口を挟む。
「ええ、ええそうなのです。あの時計台は先人が作ったもので唯一時間を確認できるものとして我々が大事にしていたのですが突然急に!謎の集団があの建物を占拠しに来たのですな。最初は敵襲かと身構えていたのですが、彼らは我々にこう言ったのです。『この街に明かりを持ってきた』と。その集団はあっという間にこの国を明かりだらけの街にしてこの国で活動する一大企業となったわけなのです。それで我々は考えました。こんなに明かりがあるのならこの街を電気の国として客寄せしよう、と。そして我々の衣服にも豆電球をとりつけるようになったのです。」
なるほど。なるほど、と言いたいところなのですが。
「最後の服に電球つけるっていうのがものすごくわからないんですけど…。もう十分に明るいじゃないですか。」とクリム。彼もさすがの眩しさに目を半分つむっていた。
しかし、燕尾服の男性は首を振りました。
「この明かりは我々の誇りなのです。豆電球をつけていることこそがこの素晴らしい街の住人だという証拠になるのです。ほら、あなたも羨ましい!私も豆電球をつけたい!なんて思いませんか?」
「はあ…。」
クリムは正直そうはちっとも思わないのですが、はっきりを言ってしまうと失礼ですから口を噤みます。
リヴィオはもはやこの明かりに耐え切れず顔を覆ってしまっています。さすがにこんな状況で観光は難しいでしょう。




二人は燕尾服の男性の案内で宿へ向かうことにしました。建物の中は明かりを自由に消すことができるからです。二人は客室へ入ると部屋のランプを少し暗めにしてそれぞれベッドに腰を下ろしました。

「リヴィオさーん大丈夫?完全に目やられちまったわけ?」
クリムが観光ガイド片手に隣の彼へ声をかけます。リヴィオは変わらず顔を覆って、
「あの光…すごく目が痛くなる。」と不満そうに言いました。

「まあそりゃあ…眩しいからな」とクリムは返すものの、リヴィオの様子を見て首を傾げました。
リヴィオはただ眩しさに目が眩んだといった反応ではありませんでした。完全に目を傷めてしまったような、痛みに耐えて震えているのが見てわかりました。
「なあ、お前の目一体どうなっちゃったわけ?」
クリムがそう尋ねると、リヴィオが覆っていた手を離して目をクリムに見せました。

彼の眼は黒ずんだ色に変色してしまっており、目の周りも腫れてしまっていました。
「時計台とか、この国の明かりは別に問題なかったんだ。でもこの国の人たちに埋め込まれている豆電球がなんかすっごい痛くて…。俺は悪魔だからここまでなってるけど、多分普通の人間にもあんまりよくない気がする。」

クリムは宿の人間を呼んで、リヴィオの目を手当てして眼帯をつけさせました。最初はびっくりされてしまいましたが、火傷をしたと言えばすんなり信じてもらえました。
リヴィオは休むとのことでベッドにもぐりこんでしばらくして寝息を立てました。

クリムは変わらずその隣で観光ガイドを開きつつ、
「この国…っていうかその突然現れた大企業様ってのどうにも胡散臭いな…。」と呟きました。
彼が開いたページには
「この国に明かりをもたらした軌跡の大企業 電気会社ヴェラネッタ」という題字がつけられています。

「うーん、ただの悪魔に厳しい国ってだけなら問題ないんだけど一応調べておいた方がいいか…。」
クリムは荷物から一台の携帯端末を取り出すと、真ん中にあるボタンをポチッと押しました。パッと液晶画面が明るくなり、そこから一人の女性の顔が現れます。
そのスーツに身を包んだ女性は茶色い髪を長く伸ばして、背中には天使の羽が生えていました。
「おはよう、イデナさん。」」
「おはようございます、天使・悪魔界の情報ポータルへ。どうしたんですか、クリムくん。リヴィオちゃんはいないのかしら?」
その女性、イデナが笑いかけます。
「あいつ、怪我しちゃって今休んでるんだ。それで調べて欲しいことがあるんだけど…。」
クリムはこの国の特徴、突如現れた電気会社の話をしました。そして、国の人々が身に着けている豆電球がリヴィオに悪影響を与えていること。

「へえ、そんなことがあったのねえ。わかった、こっちでも調べてみますね。リヴィオちゃんにも早く元気になってもらわないといじめ甲斐がないのだし。」
「ほどほどにしておいてやってくれよ。今本当にきつそうだからさ。」とクリムは言うと、通信を切ってベッドに横になる。

「リヴィオが動けないんじゃ変に飛び込めないし、明日は聞き込みでもしてみるか…。」しばらくの間、観光ガイドを見たり、携帯で調べたりとヴェラネッタの情報を探っていたが、次第に眠くなりそのまま沈んでしまうのでした。



翌日。ああ、どうしてこんな簡単なことに気づかなかったんだろうかと。ハッとする事件がありました。
リヴィオを置いて宿の売店へとクリムがお土産を見に行った際にサングラスが売られていたのです。サングラスなら光から目を守ってくれます。
クリムは喜々とサングラスを買うと、リヴィオにつけさせて街の散策へと向かったのでした。
幾分か緩和されたようでリヴィオもようやく街を見渡すことができました。しかし、まだ本調子ではない様子。会社へ飛び込むにはまだ時間がかかりそうです。

観光ガイドを広げて街の中心にある地図の看板と照らし合わせます。
「えーとここがここで…、そいでこれがこれで…」
ガイドの上から下まで指でなぞって確認をします。観光ガイドは街の地図に忠実に作られていたので、とても分かりやすくなっていました。

「なあ、ここは街の外なのか…?」
一緒にガイドを覗いていたリヴィオが地図の左下を指差しました。
ガイドでは続いたひとつの街ですが、街の地図では最初からなかったかのようにぽっこり穴が空いているのです。看板はかなり汚れていて、とても最近取り替えたものには見えません。
「変だな…。」
クリムは持っている観光ガイドをめくって左下の区域のページを探します。昨日寝る前に読んではいたのですが、結構流し見をしていたので見落としがあるのかもしれない。

「左下…明かりなしの区域…?」
クリムがそう呟くと、すれ違った女性がキッとこちらを睨んできました。えっ?とその女性の表情を見ると同様に敵意を持った表情で街の人たちが睨んでおりました。
「失礼、明かりなしの話をここでするのはやめていただけますかしら?」

気づけばクリムたちは豆電球を持つ町の人々に囲まれていた。
こちらをきつく睨む者、怪しげなものを目にするように不安がる者、様々な視線が二人を襲いました。

「もう、何やってんだよ!馬鹿!」
リヴィオはクリムの腕を引いて駆け出しました。とりあえず人目のつかないところへ避難です。
行先も分からないままただひたすら壁にぶつかるまで駆ける。すると、まるで違う国へ続いているかのように大きな門が見えてきました。
「なんだあの門は…?」
リヴィオも走る足を止めてそれに見入ってしまいます。
この街は多少古いものがあっても全体的に清潔感は保たれていました。しかし、そこにある門は一切手入れがされていないくらいボロボロでヒビも入っていました。

「旅人さん、その先はいけない!」
背後から大声が響いて思わず二人供ビクッと体が跳ねました。
そこには、昨日案内をしてくれた燕尾服の男性がおりました。
「旅人さん、きっと関わることはないだろうと私が説明を怠っておりました。申し訳ございません。町の人々には説明もしておりますので、もう問題はないかと思われます。」
彼はシルクハットを外してぺこりと頭を下げました。
「あなた方が気にかけているその門の向こうにある区域に関してご説明をさせていただけたらと思うのですが、ランチなんていかがでしょう?」
クリムとリヴィオは顔を見合わせると男性に頷きます。
「ぜひともお願いします。」


よほど人には聞かせられない話なのでしょうか。通されたレストランは隔離された個室になっていました。隣の個室から声が全く聞こえないのをみると防音設備も充実しているようです。部屋の中は白いテーブルクロスがかけられた大きな机が中心にあり、三人分の椅子が設けられています。また、机の下には荷物入れの籠があったりと待遇もなかなかのものでした。

「さて、今回は私が奢りましょう。好きなものを頼んでください。」
と男性。
クリムとリヴィオもそりゃあ、こんな高そうなレストランで食べたいものなんて山ほどあります。いや、むしろ食べたことないけれど興味本位で頼んでみたい食事だってたくさんあります。でも、奢られるとなるとどうしても躊躇してしまうわけで。
「えーと、ここのランチセットで…」
「お、オレも…」

メニューに載っている一番安いランチセットを頼みました。サラダに始まりメインとドリンクがついてくる本当にお手軽なランチセットです。
たまたまお腹が空いていたのもあって、二人はあっという間に食べ終わってしまいました。
「さて、ではお話をさせていただきましょうか。」
ランチセットを食べ終わった二人を前にどう見ても二人前くらいはあるんじゃないかって量を平らげたその男性はナフキンで口を拭いて語りだしました。

「この国の特徴は昨日ご説明した通り、電気の国でございます。でも、この国の在り方に納得がいかず伝統ある時計台を破壊しようとした不届き者がいたのですよ。彼らは明かり何て必要ないと言い、この国の大切な電気を奪おうとしました。しかし、電力会社の優秀なスタッフは彼らを取り抑えた後明かりの落ちてこない常闇の国へと隔離したのです。」なんだかおとぎ話を聞いているような、不思議な感覚だった。

「ということは、それが…」とリヴィオが口を開くと
「ええ、ええ!それが先ほどの門の先にある明かりなしの区域です。我々の中では忌むべき別国として扱っております。こちらの国とは違い、光なんてありません。ずっと闇の中を過ごしている連中ばかりです。私自身姿は見たことがないのですが、異形の化け物だと聞きます。いやー恐ろしいですね!この国から電気を奪おうだなんてどうせロクなやつではありませんよ。見た目も中身も化け物ってことですな!」

えらくひどい言いようだなあとつい苦笑いをしてしまいそうな言い分です。しかし、クリムとリヴィオにとって、この国はやはり胡散臭いのです。
この国のことを調べるには彼らの話を聞いてみる必要があるのかもしれません。

「わざわざ奢っていただいて、ありがとうございました。」クリムとリヴィオはは席を立つ。
「明かりなしの区域に住む人たちには気を付けます。襲われちゃったら僕らの旅も続けられませんから。」
「ありがとうね、おじさん。」

クリムとリヴィオは頭を下げるとレストランを後にしました。
レストランを後にした二人は明かりなしの区域にある路地裏へと身を潜めました。
何せ、名前を口にするだけで注目を浴びてしまうのです。そんなところへ向かうところを見られたらきっと異端者として国から追い出されてしまうでしょう。

二人が路地裏に隠れていると、男の子二人を一人の男の子が追いかけているのが隙間から見えました。
「やーい、陰気族め!明かりなしの区域近くの子供は皆陰気で貧乏野郎なんだー!」
と追いかけられてる男の子がからかっている声が聞こえます。彼の手には帽子が握られていて、追いかけている子はそれを取り戻そうとしているようです。
「返してよ!それはパパが働いたお金で買ってくれた帽子なんだから!」
「ふーんだ、お前みたいな服を選ぶ金もない貧乏人にこんな帽子勿体ないぜ!」

「……なんか分からないけどカチンと来た。」
クリムはそう呟くと、逃げる男の子にすっと走って近づくと帽子を取り上げて持ち主へと返す。
「そうやってすぐいじめるやつの方がよっぽど心が貧乏なように見えるんだけど。」
そう吐き捨てて路地裏へと戻ってきた。
少年たちは急な部外者の乱入によってすっかり白けてしまったのか、何も言わずいなくなってしまった。

「明かりなしの区域に住んでるやつは別国の化け物扱い、家が近所ってだけでいじめにあうのか。ひどい国だよな。」
とリヴィオが呟く。
空の明るさは変わらないのですが、持っている時計を見ると夕方近く。もう少し待ったら人通りも減って明かりなしの区域へ行きやすくなるかもしれません。

「多分もうしばらく時間はかかるだろうから、宿でゆっくりしようぜ。明かりなしの区域はもう少ししたら行こう。」
クリムがそう言って路地裏から出ようとすると。

「お兄ちゃんたち、明かりなしの区域に行きたいの?」
と少年の声が響きました。

二人ともびくっとします。先ほどの街の人々の反応を知っているのだから当然です。
まずい、聞かれた!と大慌てで辺りを見渡します。
そこにいたのは、クリムが帽子を取り返してやった子でした。

おいどうすんだよとクリムがリヴィオを見ると、リヴィオも頭を抱えてうーうー唸り始めます。
「別に大丈夫だよ。僕そこまで明かりなしの区域に悪いイメージはないから。あの会社が怪しいのも分からなくはないし…」

「いやいや?明かりなしの区域なんて言ってないぞう!路地裏はちょっとくらいからもう少し明かりが欲しいなーなんてそんな話をだね…」
「明かりなしの区域に行くなら僕の家の裏口からが行きやすいよ。案内してあげる。」

必死で弁護するクリムをよそに少年はついてきて、と路地裏から外へ歩き出しました。

少年の家は、確かに弄られてしまっても仕方ないのでは、と思ってしまうくらいちょっと汚れた家でした。
クリムたちの泊まった宿は国の中心街にあったので、こことはえらい差です。
「ただいま、お客さんだよ」
少年に連れられて家へ入ると、そこには地味な色の服を着た女性が服を繕っていました。どうやら破けてしまった服を直しているようです。

「おかえり、アル。後ろにいるのはお客さんかしら?」
「そうだよ!」どうやらこの少年の名前はアルというようです。


「ジップたちに帽子を取られた時二この人たちが取り戻してくれたんだ!それで、明かりなしの区域に行きたいんだって。」
すると女性は優しく笑うと、
「あまり外でその名前を出してはダメよ。電気の国の人たちが嫌っているは知っているでしょう。お客様方、我が家の裏口から明かりなしの区域に通じる小さな通路があります。行くのであれば人目につかない深夜帯が良いでしょう。それまではここでどうぞお休みになってくださいな。」

女性は奥にある部屋を開けてクリムたちを通してくれました。
長く使われていないのか少し埃っぽい部屋でしたが、休むには十分な広さでした。

「ありがとうございます。」
二人はお礼を言うと、女性とアルがいなくなった後に慌てて掃除を始めました。


夜。
アルくんファミリーも寝静まったころに二人は裏口から外に出ます。
迷いようがなくらいわかりやすい一本道でした。二人はなるべき足音を立てないように奥へと歩いていきました。

門をすべてくぐり終わると確かに異世界のようでした。明かりが全くないのです。読み手の方は田舎町の夜を想像するかもしれませんが、その比ではありません。マジで真っ暗です。

「懐中電灯マストバイだなこれ。」
クリムは懐中電灯をつけて明かりなしの区域を歩き回りました。
見たところ、さびれた町という感じではありません。しっかり舗装はされているし、むしろ電気の国よりも綺麗です。そして人がいません。歩いていません。

「ここまで手入れをされているんだったら、間違いなく人がいるはずなのにこれは…」
気づけば区域をぐるっと一回りしていました。やはり隔離された場所だからか、言うほど建物もないようでした。そして隅なく探しても出歩いている人は全くいないのです。
「これじゃあ話も聞けないじゃないか…」
と二人が肩を落とした時です。

「お前ら、こんなところで何をしておる。」
と年老いた男性の声が聞こえました。

声がする方へ振り返ると、そこにいたのは初老の男性。服装はTシャツにゴムのたゆんだズボン。少々みずぼらしい風貌です。

「こんなところに光の住人が来るもんじゃねえ。さっさと帰りな。こんなところ、住んでても何もいいことないぞ。」
そう言って男性は背中を向けました。

「待ってください!」
二人は慌てて男性を追いかけました。

「ボクたち、ヴェラネッタのことを調べたくてここまで来たんです。どうしてこんな場所があるのか、突然現れた電気会社の人たちは一体何者なのか。」
「正直、電気の国の人たちはその電気会社を妄信しているように見えました。どう考えても怪しい現れ方をしてるのん、どうしてあんなに信頼を置けるのかが分からないんです。まるで操られているみたいで…。」
クリム、リヴィオと続いて男性にまくし立てました。
男性は歩みを止めると、ついてきなさいと言った。

通されたのはその中でもひときわ小さいコンクリートの建物だった。中にはいると、小さなランプの明かりが一つ、部屋に置かれていた。その正面に小さなブラウン管のテレビ、ちゃぶ台と並ぶ。観たところちょっと時代を感じる家だった。

「そこに座れ。茶くらいなら出してやる。」

男性が奥に籠っている間二人は机の前の床に座り込む。
座り込んで最初に感じたのが、ここがとても寒いということだった。電気が通っていないから、今時のストーブだったりエアコンだったりが存在しないのだ。
しばらく待っていると、男性がお盆に乗ったお茶を運んできた。見たところそのお茶も冷たいようだった。

「さて、お前ら二人どこまでこの国のことを知っている?」
二人はヴェラネッタに着いてから燕尾服の男性やアル少年に聞いたことを説明しました。
男性はうんうん、と頷きながら話を聞いて、
「そこまでかの?」と尋ねた。

「まだ続きが?」
「続きというべきか…、その説明では分からないことも多いだろうからな。もう少し掘り下げた説明だ。」

男性が説明してくれたのは時計塔を占拠して電気会社のことでした。
今から遡るに5年ほど前。明かりなしの区域なんてものは存在せず、国中の人が暗い街の中をランプを持ち歩いて過ごしていました。今電気の国で暮らす人々からしたら不便な生活だったかもしれませんが、争いもいがみ合いもないそれはとても温かい国だったそうです。そんなある日、恰幅の良い男性一人と秘書らしき女性が二人、時計台に上りそのてっぺんに大きな電球を取り付けたのです。
国の人々は突然の眩しい光に驚き、警察は時計台を上って彼らを取り押さえました。そのまま男性と秘書二人は拘束されて国からも追放と言われたのだそうです。
しかし、そこで起きた事故はきっとこの場にいるこの男性くらいしか認識できていなかったのかもしれません。
後で取り外そうと置かれていた電球が怪しげな色に光ったかと思うと、警察は拘束する手を止めてしまったのだそうです。そして、騒いでいた街の人々も何かにとりつかれたように黙り込んでしまったと聞きます。
そこで拘束された男性は彼らの前で「この街に明かりを持ってきた」と宣言して怪しく光る電球を指差しました。
すると街から拍手が溢れ、気づけば皆その男性を受け入れてしまっていたのだそうです。
「そこまでじっくりと観察をしていて、どうしてあなたは洗脳されなかったんですか?」とクリム。
当然、一人だけ都合よく逃れるなんてことはありえないことです。

「私は盲目なんだ。目が見えない。今オレが説明しているものはもちろん、周囲の人間の証言から知ったものもある。」
と男性。
「つまり、目の見えるものがそのでかい電球を見ておかしくなってしまったわけだ。オレはそいつはおかしい、怪しい電球を持っていると訴えた。警察にも通った。しかし、彼らは全く耳を貸さなかった。そして、その怪しい連中から風評被害だの文句をつけられて気づけばこんな陰気臭い区域の住人だ。」

クリムは心の中でビンゴ、と呟きました。やはりあの電球に問題があるとのことです。ちなみにクリムたちが洗脳されなかったのは、あの電球の持ち主が旅人に気づいて洗脳の力を使っていないからでしょう。

「貴重なお話をありがとうございました。ボクら、やることができたのでここらへんで失礼します。」
「やることだと?あの時計台を落とそうだとか馬鹿な事を考えてはいないだろうな?お前らみたいな子供に何ができる。」

しかし、二人は立ち上がって男性へ向き合うと。

「ボクたちは子供とはちょっと違うんですよ。不思議な力を持った子供でね、この街にある異変を調べに来たんです。おじさんもきっとすぐにここから出られるようになりますよ。」

二人はぺこりと頭を下げると、アル少年の家へと駆けだしました。
時間は夜明け前。なんとか朝になるまでに戻ることができました。

アル少年の家を通って、再び電気の国へ。ホテルのある中心地へ戻ると出歩いている人もたくさんいました。
「もしかして、もうすぐに乗り込むのか?」とリヴィオが不安そうに尋ねると。
「いや、眠いしお腹空いたからもう少し休んでからにするよ。」
と割と現実的なことを言って布団に籠ってしまいました。



朝になります。
アル少年の家も温かかったけどやはり中心地のベッドは最高だなあと改めて実感したところでクリムは携帯端末をピッと起動。

「イデナさん、やっぱりここの電力会社は黒だ。」そう報告をすると待っていましたと言わんばかりに資料がたくさん送信されてきた。

「ああー良かった!夜の間通信機発信しても電波が届きません~って返ってきちゃって心配していたんですよ!なんで地下に潜っちゃったのよ!」
といきなり説教もされたが。
恐らく明かりなしの区域に向かっている間に発信があったのだろう。あそこは電気がないから受信もできない。

「怪しい光を放つ電球の持ち主として、調べてみたんだけれど添付した画像の化け物。それじゃないかなって。人々を洗脳する光を放つんだけれど、それは光の力を多く含んでいるからリヴィオちゃんみたいな闇属性の悪魔には毒になってしまうのね。」
その化け物は電球に足が生えた虫のようなものだった。

「じゃあ、こいつを倒せばいいわけか。でもリヴィオ、お前は無理だろ。近づかなきゃ戦えないし。」
「別にちょっと戦うくらいならするって。ずっとこの電球に囲まれているのも正直うんざりだし、結構このサングラス使えるんだぜ?」
クリムの問いにリヴィオは得意げに答えました。

「無理はしないでねー。リヴィオちゃん悪魔とはいえあまり力はないんだから。」とイデナにぐさっとくる一言をお見舞いされてしまう。
「無理じゃないし。」

強がりつつも、ちょっと落ち込んだ様子のリヴィオを連れてクリムはホテルの外へと出て路地裏に隠れます。

ホテルから出た二人には小さな銃が握られています。
これはこの二人がこっそり所持している銃でブライトと呼ばれるものです。

二人はそれを構えると、飛び跳ねました。

通常の子供ならただ跳ねて遊んでいるような微笑ましい光景ですが、彼らは空高く飛びあがりました。
空にいるクリムには白い天使の羽が、リヴィオには黒い悪魔の羽がいつの間にか生えていました。
「できるだけ目立たないで行きたい。急ごう。」
とクリムは言うと時計台の頂上へそのまま飛んでいきました。慌ててリヴィオも後を追います。



場所は時計台の頂上。監査室のような場所になっていて、そこの中心に明らかお前ボスだろと言わんばかりに恰幅の良い男性が座っていました。彼の頭にはものすごく大きな電球が時計塔に足を絡めて光を放っていました。
「今日も相変わらずピカピカ眩しいねえ、ここは。」

恰幅の良い男性は目を薄めて時計塔から街を見下ろしていました。やはり高いところなので眺めは最高です。人々は米粒にしか見えません。でも一人一人の持つ電球の光がカラフルに光っているのです。
「ここで洗脳した奴らは全員ウチの従業員として働いてもらう。あの人に力を与えるためにはもう少し人手がいるからな。電球をもっとたくさん作ってもらわなければ…」

男性は正面にモニターを表示すると、時計塔の下にあるとある一室を表示させました。そこには彼の頭にいる電球と同じくらいの大きさのものがそこにいました。まだ明かりはついていません。どうやら、これを運用させるために人々は働いているようです。

「この明かりの正体が電光虫とも知らずにおめでたい奴らだ。まあ、どうせ明かりなしの区域にいるオヤジ以外はそんなこと考えないんだろうがな。」

カカカと笑って再度モニターを眺めます。モニターに見知らぬ子供の顔が映りました。青い肌です。そちらに注目していたら褐色肌の子供の顔も映りました。

「なん…………?」
と声を上げたところで。

モニターが吹き飛んでいきました。部屋の横に。どかーんと大きな音を立てて。

「な、何があった!?」
と男性は慌てて立ち上がります。

「すみませーん、このモニターがあまりに邪魔だったので。例の電球はこれでいいんかな。よーし破壊しよう。」

ひょこっと顔を出したクリムは電球に向けてブライト銃を構えました。
「させるか!」
電球…というか電光虫はばっと飛び立ちました。
後を追いかけようとするクリムの足をを男性が掴んで引き止めます。

「なんだこの子供は!どこから入った!羽とかふざけたコスプレしやがって!あと顔色悪いな!」

「ちょ、離せよおっさん!別にこれコスプレじゃねえし生まれた時から生えてたし!顔色も生まれつきだよ悪かったな!

クリムはそう叫んでもがくものの、男性の力もなかなかなものです。
が、彼はあと一人いることを忘れてしまっているのです。

「ゴギャー」
電光虫から鳴き声があがります。
何事かと男性が振り返るとリヴィオがブライト銃を構えて電光虫を撃っていました。
周りの職員はと言うと、とても届く高さではないので呆然と眺めているだけでした。

「ああああ、やめろ!やめろくっそ!」

男性はクリムを突き飛ばすと、先ほど自分が座っていた椅子に戻り、ひじ掛けに意味深にあるボタンを押しました。すると椅子はガーと音を立てて上の方へあがっていきました。とても便利な椅子です。

「電光虫よ!もっと強く強く光るのだ!所詮こいつらは子供!光に当ててしまえば洗脳なんてたやすいものよ!」

すると「ボギャー」と鳴き声をあげて強く光り出しました。クリムは俯いて目を閉じました。リヴィオも目に毒となるので目をつむるべきなのですが、それではどうにもならないくらい電球は目の前です。

リヴィオは羽を燃やしながら落ちてきました。
「くっそ」

クリムは落ちてきた彼を抱きとめると、ブライト銃を電光虫へ向けました。
先程リヴィオが傷をつけてくれたため、動きはぎこちないのですがそれでも銃をうまく当てるのは少々難易度が高そうです。
「近づかないと、ダメなのか…」

とクリムが焦った様子を見せると。
「オレはオレで飛べる。目は問題ない。」
とリヴィオが息絶え絶えな状態で言いました。
「あの電球はただ撃つだけじゃ壊せない。俺たちのブライトを両方同時に使わないと」
ちなみに天使力を集めた白いブライト銃、悪魔力を集めて黒いブライト銃を同時に力込めて撃つと大きなビームになります。これを「白と黒の刀演武(ブライト・ブレイド)」と呼ぶそうですが中二臭いので二人は使いません。そのせいでブライトを同時に使うだとかブライトをブレイドさせるだとかよくわからない発言になってしまうこともよくあります。

「わかったリヴィオ。オレはお前を打ち上げる。目を閉じたままでいい。下方向に撃ってくれ。オレは下から撃つ。多分職員の招集もかかっている。失敗はできない。でもこいつを壊して人々の洗脳が解けたならきっともう大丈夫なはずだ。」
「了解。じゃあこの一撃に全部込めたらいいんだな。」

クリムは捕まえようと駆け寄ってくる男性を蹴り払ってすぐ飛び立つと、リヴィオを高く上へと放りました。
シュババババと激しい音を立ててブライト銃が黒く光ります。
クリムはリヴィオのの正面に立つと、彼もブライト銃を上へ向けて力を込めました。

「んなああああああああああああああああああああ!」
これは目が痛いのを我慢しながら大技をぶっぱなすリヴィオの悲鳴です。決してかっこいい決め台詞ではありません。

しかし、電光虫の電球はヒビが入りそのままはじけ飛びました。


すると国全体がふっと真っ暗になりました。二人の下の方でガラスが割れるような音も響きます。

完全に脱力したリヴィオをクリムが受け止めます。しかし、真っ暗なものでうまくキャッチはできずかろうじて腰を支えられるくらいです。


それからのことは、ホテルでリヴィオが完治してから聞きました。
男性は国外の怪しい人物として正式に追放されました。
また、国の人たちは身体から電球を全て外し再び暗い生活に戻ったそうです。
そしてこぞって明かりなしの区域へ男性を迎えに行って彼も今は中心街に引っ越しをしたそうです。
彼には息子も兄弟もいたそうですが、彼らは明かりなしの区域にいたころに貧困でなくなってしまったらしく連れてきてあげたかったと言っていたそうです。

「羽の形のランプ……」
目を覚ましたクリムは街の売店を見てうなだれます。明かりのつくものはすべて危険物として廃棄されてしまったそうなのです。なのでクリムの目当てのものも廃棄処分され名物ではなくなってしまいました。

落ち込む彼をよそにリヴィオは売店で買ったワッフルを満足そうに頬張っていました。観光ガイドにさりげなく載っているのをチェックしていたそうです。
「まあ、また他の国に似たようなものあるって。元気出せよ。」完全に回復して嫌な電球もなくなった今、リヴィオはすっかり元気になっていました。
クリムは残念そうな表情を残しつつ、彼に差し出されたワッフルをほおばりました。

「あ、これ美味い。」

お土産はワッフルの箱を3日分になりました。

Image, Video, Others

There are no works.

 Go to Page Top
Please check email from us to confirm your email address.